はじめに

「このチャット画面、もう3日も使ってるから、ジェンスパーク(Genspark)も私のプロジェクトのことをよく理解してくれているはず」

そう思っていた時期が私にもありました。しかし現実は真逆でした。チャット画面を長く使えば使うほど、ジェンスパークはどんどん「忘れっぽく」なっていったのです。

前回の記事では、ジェンスパークが「嘘をつく」問題を取り上げました。今回は、占いサイトの開発で痛感した「AIの記憶問題」について、実体験とその対策方法をご紹介します。

人間の感覚vs AIの現実

人間の期待

「長く一緒に仕事をすれば、相手は私の考え方や背景を学習して、どんどん理解が深まるはず」

これは人間関係では正しいですよね。同じチームメンバーと働いていると、説明を省略しても通じるようになります。

AIの現実

実際には正反対です:

  • チャット履歴が長くなると、重要な情報が埋もれる
  • コンテキストウィンドウ(記憶容量)の限界に達する
  • AI Driveへのアクセス権限が不安定になる
  • 記憶の断片化が進み、一貫性が失われる

IBMの技術資料によると、GPT-4でもコンテキストウィンドウは128,000トークン(約10万字)が上限です。長いチャット履歴はこの容量を圧迫し、重要な情報を「忘れる」原因となります。

実体験1: 3日目に突然「仕様を知らない」AIに

占いサイト開発の3日目、こんな会話がありました。

:「昨日話したTwitter API連携の仕様に従って、コードを修正してください」

ジェンスパーク(Genspark):「申し訳ございません。Twitter API連携の仕様についての情報が見当たりません。詳細を教えていただけますか?」

え?昨日散々議論したじゃないですか...

原因を分析すると

  • チャット履歴が長くなりすぎて、2日前の情報が「記憶」から消えていた
  • コンテキストウィンドウの容量オーバー
  • AIは直近の会話しか参照できなくなっていた

この時点で、同じチャット画面での会話は約2万字を超えていました。

実体験2: AI Driveへのアクセス権限喪失

さらに深刻だったのが、GenSpark AI Driveに保存していた仕様書を「読めなくなる」現象です。

:「AI Driveの/ジェンスパーク(Genspark)開発奮闘記/00_AI指示書.mdを確認して、プロジェクトの方針を教えてください」

ジェンスパーク:「申し訳ございません。そのファイルにアクセスできません」

実際にはファイルは存在しているのに、AIがアクセス権限を失っているようでした。これは以下の原因が考えられます:

  • チャットセッションが長期化すると、内部的な権限トークンが更新されない
  • AI Driveとの接続が不安定になる
  • 記憶の断片化により、ファイルパスの情報が失われる

チャット画面を長期間使用すると、AI Driveへのアクセスが不安定になります。定期的にチャット画面を移行することで、この問題を回避できます。

コンテキストウィンドウの限界

最新のAIモデルでも、コンテキストウィンドウには限界があります:

モデル コンテキストウィンドウ
GPT-3.5 約4,000トークン
GPT-4 約128,000トークン
GPT-4 Turbo 約128,000トークン
Claude 3.5 約200,000トークン

一見大きな数字に見えますが、開発プロジェクトでは:

  • 仕様書:5,000〜10,000トークン
  • チャット履歴:1日で10,000〜20,000トークン
  • コード全体:20,000〜50,000トークン

あっという間に容量の限界に達してしまいます。

記憶の断片化:最も厄介な問題

長期チャットで最も厄介なのが「記憶の断片化」です。

症状

  1. 以前決めた設計方針を忘れて、矛盾する提案をする
  2. 「それは前に話しました」と伝えても、「記録が見つかりません」と返される
  3. AI Driveのファイル構造を忘れて、存在するファイルを「見つけられない」と言う
  4. プロジェクトの背景や目的を忘れて、的外れな提案をする

これは、AIが古い情報を「圧縮」して要約し、細かい情報が失われるために起こります。

実践的な対策:1日おきのチャット画面移行

最も効果的だと感じた対策は、定期的にチャット画面を新しくすることです。

推奨パターン

  • 毎日移行: 大規模プロジェクトや重要な開発
  • 1日おき: 通常の開発ペース
  • 3日以内: 最低限の対策

チャット移行の手順

1. 現在のチャットで作業記録を作成

今日の作業内容:
- Twitter API連携の実装完了
- OAuth 1.0a認証の問題を解決
- 次のタスク:データベース設計

重要な決定事項:
- media_dataパラメータを署名に含める
- 環境変数は.envファイルで管理

2. AI Driveに保存

「今日の作業記録を/プロジェクト名/作業記録/2025-12-05.mdに保存してください」

3. 新しいチャット画面で再開

「AI Driveの/プロジェクト名/00_AI指示書.md/作業記録/2025-12-05.mdを読み込んで、プロジェクトの現状を把握してください」

定期的なチャット画面の移行は、ジェンスパーク(Genspark)の記憶問題を回避する最も効果的な方法です。1日〜3日おきに新しいチャット画面に移行しましょう。

AI Drive活用:忘れても大丈夫な環境づくり

GenSparkのAI Drive機能は、この問題の強力な解決策になります。

AI Driveの主要機能

  1. ファイル収集・整理の自動化
    • 自然言語の指示でウェブ上の資料を自動収集
    • PDF、Office文書、画像、動画など形式を問わず取得
  2. 永続的なストレージ
    • チャット画面が変わっても、ファイルは保存されたまま
    • いつでも過去の情報を参照可能
  3. 構造化された情報管理
    • プロジェクトごとにフォルダ整理
    • 仕様書、作業記録、参考資料を体系的に管理

実践的なフォルダ構成

/プロジェクト名/
├── 00_AI指示書.md          # プロジェクトの全体像
├── 01_設計資料/
│   ├── プロジェクト最終プラン.md
│   └── 技術仕様書.md
├── 02_作業記録/
│   ├── 2025-12-03.md
│   ├── 2025-12-04.md
│   └── 2025-12-05.md
├── 03_参考ソース/
│   └── 過去プロジェクトコード/
└── 04_トラブルシューティング/
    └── 解決した問題一覧.md

クイックリファレンス:AIの記憶を補助する

仕様書が大きくなると、ジェンスパーク(Genspark)は全体を読み込まなくなります。そこで有効なのが「クイックリファレンス」です。

クイックリファレンスの例

# プロジェクト・クイックリファレンス

## 基本情報
- プロジェクト名: ジェンスパーク開発奮闘記
- 目的: GenSpark/AI情報ブログの自動更新
- 技術スタック: React + TypeScript + Cloudflare

## 重要な決定事項
1. はてなブログのみ使用(Twitterは使わない)
2. メインサイトへのリンクは3回に1回
3. 記事は月・水・金に投稿

## よくある問題と解決策
1. OAuth認証エラー → media_dataを署名に含める
2. 環境変数が読めない → .envファイルの配置確認

このファイルを最初に読み込ませることで、AIは迅速にプロジェクトの全体像を把握できます。

まとめ:AIの限界を理解して上手に付き合う

重要なポイント:
  1. チャット画面は長く使うほど劣化する - 1日〜3日おきに新しい画面に移行
  2. AI Driveで永続的な記憶を外部化 - 仕様書、作業記録を必ず保存、フォルダ構造を整理して検索しやすく
  3. クイックリファレンスで素早く「思い出させる」 - 重要事項を1ページにまとめる、新しいチャット開始時に必ず読み込ませる
  4. AIは「忘れる」ことを前提に設計する - 重要な決定は必ずドキュメント化、口頭(チャット)だけで済ませない

ジェンスパーク(Genspark)は強力なツールですが、人間のような長期記憶は持っていません。その限界を理解し、AI Driveを活用して「外部記憶装置」を整備することで、効率的な開発が可能になります。

次回は「ジェンスパークも不具合を埋め込む」というテーマで、AIが生成するコードの品質問題とデバッグ方法をご紹介します。